個人事業主の方は、青色申告をすることで最大で65万円の青色申告特別控除が受けられます。青色申告は難しいというイメージで、メリットの多い制度を利用しないのは損。会計事務所への勤務歴を持ち、税制の知識が豊富なFP田中友加さんに、青色申告についておうかがいしました。
*このコラムは、FP田中友加さんにお話をうかかがい、おカネレコ事務局がまとめたものです。
個人事業主、フリーランスの方の確定申告のしかたは、青色申告・白色申告の2種類があります。必要な書類、求められる帳簿の種類などが異なっていて、受けられる税制の優遇措置にも違いがあります。
青色申告は、複式簿記で帳簿をつけることなどが条件のため、難しく感じている方が多いのではないでしょうか。しかし正しく青色申告を行えば、最大65万円の青色申告特別控除が受けられ、大きな節税効果が得られます。
目次
■青色申告で最大65万円控除 難しくてもおすすめしたい理由
複式簿記により記帳し、貸借対照表および損益計算書を確定申告書に添付するなど要件を満たした場合、e-Taxなら65万円、書面での提出でも55万円の控除が認められます。単式簿記による青色申告でも、10万円の控除があります。
白色申告は青色申告に比べて必要な書類も少なく、手続きがかんたんなのですが、このような控除がないため、税制の優遇を受けることができません。
●ポイント●
青色申告:特別控除あり
- e-Taxによる確定申告、または仕訳帳および総勘定元帳について電子帳簿保存を行っていることで、最大65万円の控除
- 書面での提出でも55万円控除
- •原則複式簿記での記帳が必要、単式簿記の場合は10万円の控除
白色申告:控除なし
- 青色申告に比べてかんたん
- 単式簿記での記帳が必要
白色申告でも事業所得の金額に関わらず、単式簿記での記帳が必要で、青色申告と同様に、一定期間の保存の義務があります。そのため、白色申告を選ぶメリットは少ないとも言えるでしょう。
白色申告に必要な単式簿記は、青色申告で求められる複式簿記よりシンプルです。でも、同じく帳簿をつけるなら、知識を身につけて青色申告をしてみることをおすすめいたします。65万円や55万円の青色申告特別控除を受けられるかどうかの差は節税効果だけでなく、ほかにも青色申告だけに認められている優遇措置があるからです。
たとえば、損失(=赤字)が出てしまった場合、最長3年間にわたり、翌年以降に繰り越せます。赤字になった翌年に黒字になった場合でも、前年度の赤字の金額を差し引くことができるため、節税になるというものです。
また、青色事業専従者給与が経費として認められるのもメリットのひとつ。青色事業専従者給与とは、仕事を手伝ってくれる家族に支払う給与です。
青色申告を行うには、原則として申告を行う年の3月15日までに青色申告承認申請書の提出が必要です。(新しく事業を行う方は、開業日より2か月以内に提出)
白色申告から青色申告に変更を考えている方は、青色申告の承認を受けるための手続きを忘れないようにしておきましょう。
●ポイント●
- 青色申告では控除以外にもメリットがある
- 赤字の繰り越しが可能(最長3年間)、専従者給与が経費として認められる、など
- 事前に青色申告承認申請書の提出が必要なことに注意
■青色申告のもたらす思いがけないメリット
特別控除の恩恵を受けられることは、青色申告の最大の魅力です。正しい申告をすることで、最大65万円の控除が認められれば、大きな節税効果となることでしょう。
しかし、複式簿記で収支を記録するメリットは、節税だけではないと私は考えています。毎月の収支を確認することで、経営状態を把握することができ、お金の流れにも敏感になります。事業を行ううえで、出ていくお金、入ってくるお金をしっかり把握することはとても重要です。
正しく記帳することで、お金の流れを意識する面白さも発見できるはず。事業の改善ポイントも見えてくるかもしれません。
「黒字倒産」という言葉を聞いたことはありますでしょうか。
商品は順調に売れていて、帳簿上は利益が出ているにも関わらず、資金繰りに問題が出てしまって倒産してしまうことです。
BtoBの企業間取引においては、商品が売れたあと実際に代金が支払われるまでに、数か月かかることはめずらしいことではありません。その間の運転資金を確保していないと、資金繰りに行き詰ることになってしまいます。
黒字倒産を避けるには、まずお金の流れをしっかりと把握することが大切です。青色申告に必要な複式簿記は、それを助けてくれます。
一般的に起業直後ほど、資金の調達が安定しないものです。キャッシュフローがプラスになる経営を心がけることが大切になってきます。起業してすぐのよくわからないときほど、複式簿記による記帳でキャッシュフローを意識することは、想像以上にメリットがあるのです。
ふだんから帳簿で経営状態やお金の流れを理解しておく。
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理解することで、リスクを下げることができる。事業の改善点も見つかる。
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そしてその帳簿をもとに、年度末に決算を行い、青色申告。
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正しい青色申告で、特別控除を受ける。
というサイクルができるのではないでしょうか。
●ポイント●
- 青色申告のメリットは節税だけではない
- お金の流れに敏感になることは、事業を行ううえで大きいメリット
- 事業の改善点が見えてくる、黒字倒産を防ぐ、など
複式簿記による経理管理など、正規の簿記要件が必要な青色申告は、ハードルが高いと思っている方が多数いらっしゃると思います。
たしかに複雑な面もあるのですが、今は操作がかんたんで分かりやすく、ナビゲート機能が付いているなど便利な会計ソフトがありますから、頑張れば自分でやることは可能です。会計ソフトを使って必要な会計を入力さえすれば、青色申告に必要な書類はひととおり作成できるのです。
大きい会社なら税理士さんにお願いするとしても、個人事業主の方などには、ぜひやり方を学んで、青色申告にチャレンジしてもらいたいという思いがあります。FPとして、青色申告は難しいと思っている方の心のハードルを下げるお手伝いをしていければ、と思っています。
■FPが提案する独立の不安をとりのぞく自衛方法
お客様のご相談を受けるうえで、近年は独立を目指す人が多くなった印象があります。経済の先行きが不透明なこともあって、会社に頼らず、自分で事業をやってみようと思う人が増えてきているのではないでしょうか。
また、副業を認める会社が増えたこともあり、自分で確定申告をすることが必要なケースが増加しているとも感じています。
確定申告で大事な控除は、青色申告・白色申告で認められる事業所得の控除だけではありません。
たとえば、iDeCo(個人型確定拠出型年金)は、掛金すべてが所得控除になります。iDeCoは加入区分に応じて拠出できる掛金の上限が異なりますが、個人事業主の場合、年間で81.6万円まで拠出することができます。所得控除により課税所得を小さくすることで、所得税だけでなく住民税や、個人事業主が加入する国民健康保険料などにも影響してくるため、大きなポイントになります。ただし、60歳までは引き出せないので、先々必要な資金を考えて加入することが大切です。
独立を目指す方で、会社勤めと比べて保障が少ないことを不安に思っている方は多いです。実は、おすすめできる自衛の方法はいくつもあります。iDeCoはそのひとつです。国民年金基金や小規模企業共済に加入する、NISAを始めるなど、自分で将来に備える方法はほかにもあります。
将来の保障については、みなさんよくわからないままに不安に感じている場合がほとんどです。これら自衛の方法の窓口がそれぞれ違うのも、よくわからなくなる原因になっている気がしています。
FPはそういったお金の情報をトータルで扱っているため、それぞれのお客様に応じて最適なアドバイスが可能です。ぜひ私たちFPをうまく活用して、安心して働いて、将来に備えていただきたいと思っています。
●ポイント●
- 個人事業主に知ってもらいたい自衛方法はいくつもある
- それぞれ窓口が違い、保障の性質もさまざまなので、幅広く情報を集めてもらいたい
- どの方法を選ぶべきか迷ったら、FPに相談してアドバイスをもらうのもひとつの手
■青色申告を目指す人ほどつけてほしい家計簿
青色申告をするメリットは、まず大きいのが事業所得から最大65万円の控除が受けられること。また、複式簿記での帳簿の義務などで、自然とお金の流れに意識が向くことだとご説明いたしました。
それを家庭単位にしたものが、家計簿だと私は考えます。
事業をする人も、会社に所属する人も、ぜひ家計簿をつけてみて下さい。出ていくお金の見直しをしたり、貯蓄・運用に回せるお金を割り出すのは、事業であっても家庭であっても同じ作業です。
将来独立を考えている人などは、まずは家計簿で家計の管理から始めてみることが、お金の流れを理解する一助になるのではないでしょうか。
生活に密着したお金を管理する家計簿からスタートして、お金に対する意識を育て、必要な知識は私たちFPに相談していただければと思います。